ヴァン(Van)はトルコ南東部のヴァン県の中心都市。
トルコ最大の湖である「ヴァン湖」の東側湖畔に位置する人口28万人の町です。海抜1750メートルでやや高地にあり、夏も涼しい気候。「ワン」と表記されることもありますが、本記事ではgoogleマップの表記に倣い、「ヴァン」で統一したいと思います。
人間の定住は紀元前5000年にまで遡り、紀元前9~7世紀にはウラルトゥ王国の首都トゥシュパ(Tushpa)として栄えるなど、歴史のある街だったヴァン。
この街を有名にしているのは、街から西5キロほどに広がるトルコ最大の湖ヴァン湖(Van gölü)でしょう。
ヴァン湖の面積は3,755 km2で琵琶湖の5倍以上とかなりの大きさで、最大水深も451mに達します。
最大の特徴は塩湖かつ強アルカリ性(pH9.7~9.8)であることで、触るとかなりヌルヌルしています。強アルカリ性のために洗剤としても使われているとか。
その性質から生物がすむのには適しておらず、生息する唯一の魚はコイ科の「インジケファリ(İnci kefali)」とされてきました(※ 新種が見つかる2018年まで)。インジ・ケファリは5、6月に産卵のため弱アルカリ性の河口域まで移動するらしく、その川登りの光景は1つの観光資源となっています。
2018年に微生物の内部で新種の魚(Oxynoemacheilus ercisianus)発見され、インジケファリは“オンリーワン”ではないことが判明してしまいましたが・・・
水の色が白色から深い青色まで変化するのも面白い特徴です。これは酸素濃度の異なる河川が流入することで化学反応を起こしているためと言われています。
ヴァンについてあまり詳しく知らなかった方も、ユニークな特徴を持つヴァン湖と古代からの歴史ある辺境の地であることを知れば、少し興味が出てきたはず(←無理矢理)
本記事では、そんなヴァンの観光スポットについてご紹介します。ヴァンの中心部だけでなく、周辺の見どころについてもアクセス方法含めて書いていますので、ぜひご参考にしてください。
ヴァンの市内案内【観光マップと市内交通について】
まず最初にヴァンの主な観光地の位置と、アクセスに必要なドルムシュ(ミニバス)が発着するバス停について把握しておきましょう。
今回ご紹介する観光スポットは主に郊外に点在しており、ヴァン中心部から最も近いヴァン城でも3キロほど離れています。そのためどこもドルムシュでのアクセスが基本となります。
ヴァンには下図の通り、オトガル(長距離バスターミナル)が1カ所、ドルムシュ専用の発着ターミナル(Minibus Durağı / ilçe otogarı)が4カ所あります。
オトガルには他県からの長距離バスが発着しますが、ヴァン県の各都市へのドルムシュも出ています。それぞれの行き先は次の通り。
- オトガル :Akdamar Adası, Gevaş, Özalp, Saray, Gürpınar, Muradiye, Erciş, Çaldıran, Doğubayazıt、イラン
- ドルムシュバス停①:Kampüs, istasyon, Kale, İskele, Kalecik(Vanevi), Kalecik TOKi
- ドルムシュバス停②:Edremit
- ドルムシュバス停③:Bahçesaray, Çatak
- ドルムシュバス停④:Hoşap, Başkale
上図のバス停はあくまで発着地点であり、必ずここまで行って乗る必要はありません。「Kampüs」「Kale」など行き先はドルムシュ自体に掲げられているので、街中で目当てのドルムシュが見つかれば、合図して乗ることが可能です。
また「İskele」「Maraş」といった「通り」の名前も覚えていくと良いです。これは各観光スポットからヴァン中心部へ戻る際、どのドルムシュに乗れば良いか判別するため。私は「İskele」「Maraş」行きドルムシュをよく利用しました。
あまり利用場面は多くないかもしれませんが、ドルムシュではない普通のバスに乗る場合は写真のようなヴァンカード(BELVAN KART)が必要であることに注意(現金支払い不可)。プリペイド式のカードで初回の発行が50リラ。キオスクなどで買えます。
一部のドルムシュでもこのカードは使うことができます。
ヴァン中心部の見どころ2選
ヴァン城(Van Kalesi)
ウラルトゥ王国時代のBC9〜7世紀に築かれたヴァン城(要塞)。
ヴァンの街の西3キロに位置し、ヴァン湖を見下ろす岩山の上にそびえたっています。
ウラルトゥ王国のルティプリ王(Lutupri)の息子のサダウリ1世(Sadauri Ⅰ)による建造とされ、城壁の下部は玄武岩、上部は日干し煉瓦が使われています。
ヴァン城は北側の入り口から反時計回りにぐるっと迂回して入城することができます。城の上からはヴァン湖の絶景が見渡せるのでヴァンに来たならここは外せない観光スポットでしょう。
「Kale(城)」と書かれたドルムシュにて カレ通り(Kale Street)上を進み、ヴァン城の少し手前で下車(ヴァン城の入り口までは行ってくれない)。5リラ。そこから入り口まで徒歩10分程度
ヴァン考古学博物館
ヴァン城へ行くのなら城の入り口付近にある「ヴァン考古学博物館」へも足を運びたいところ。
この博物館では主に、紀元前9~7世紀に存在したウラルトゥ王国に関する様々な展示を見ることができます。展示内容も、金の宝飾品、ブロンズのベルトやヘルメット、馬の鎧、テラコッタの像や壺など幅広くなかなかのボリューム。ウラルトゥ王国に関する情報がここまで充実しているのは他にないのではないでしょうか。
紀元前9~7世紀に実在した王国。長らく歴史に埋もれていたが、19世紀に再発見された。
ウラルトゥ語は日本語やトルコ語と同じ「膠着語」であり、楔形文字が使われていた。またウラルトゥ人は多神教を崇拝し、戦神ハルディ(Haldi)を筆頭に63の男神と16の女神を崇めていたとされる。最大版図は22万k㎡。
天皇家のルーツ説まである。
アクセスはヴァン城と同じ。入場料20リラ。
実はこのウラルトゥ王国にはとある伝説があります。それはなんと最初の天皇「神武天皇」の祖先のルーツがあるというもの(笑)。
マユツバの域を出ない気がしますが、書籍も出ています。すでに廃版でかなりのプレミア価格になっていますが、ご興味があれば読んでみてはいかがでしょうか?
ヴァン郊外の見どころ5選
ヴァン猫ハウス(繁殖センター / Van Kedi Villası)
“ご当地動物”に会いたいなら「ヴァン猫ハウス」。国内に1000頭しかいないとされるヴァン猫(Van kedisi)の繁殖センターです。
入場料4リラを払うと建物内に入って間近で観察することができます。さらにエサ代12リラを払えば餌付けすることまで可能。
ヴァン猫は建物外の檻の中と建物の中で飼われ、お互いを行き来しているので、建物外の檻なら入場料を払わなくても見ることができます。
ヴァン猫の特徴は、水泳が得意だということと、オッドアイと呼ばれる両目の色が違う個体がいること。目の色は青色から琥珀のような茶色まで個体差がありますがとてもきれいです。また人懐こいのも特徴とされ、餌付けしていると頭の上にまで乗ってくるほど(笑)
ちなみに泳げるオッドアイの猫としては他にターキッシュバンという、こちらもヴァン湖周辺原産の猫もいます。ヴァン猫とは別種ですが、その最大の違いは額としっぽの部分に色がついていること。「バンパターン」と呼ばれているそうです。
一方で、ヴァン猫は全身が白色とされます。
ヴァン猫は国外への持ち出しも禁止されている保護種なのでめったに出会えないため、ヴァンにお越しの際はぜひ訪れてみましょう。
ヴァン中心部から北西方面に位置するヴァンユズンキュユル大学(Van Yüzüncü Yıl University)の敷地内にあるので、ドルムシュバス停①から出ている「Kampüs Otogar(キャンパス オトガル)」と書かれたドルムシュにて大学内のバス停へ。そこから徒歩10分程度。
入場料4ラリ。エサ代12ラリ(オプション)
アクダマル島 & 聖十字架教(Akdamar island & Holy cross church)
ヴァン湖の南に浮かぶアクダマル島に建つ聖十字架教会(アクダマル教会)。バグラトゥニ朝アルメニア王国最盛期の王ガギク1世(Gagik I)の命により、建築家マヌエル司教によって10世紀初頭に建てられたアルメニア使徒教会です。
アルメニアの国教(301年~)ともなっているキリスト教の一派。合性論の立場をとる非カルケドン派正教会に属し、信者は世界で500万人ほど。他教会における総主教のことはカトリコスと呼ぶ。
アルメニア正教会と呼ばれることもあるが、ギリシャ正教やロシア正教といった東方正教会のグループではないことに注意。
もともとこの教会はアクダマル宮殿の一部でしたが、現在はこの教会しか現存していません。
ここで注目すべきは外壁の精緻なレリーフの数々。
アダム、イブ、アブラハム、ダビデ、ゴリアテ、イエスといった聖書の場面や、宮殿での生活、狩猟の場面、人間や動物などが描かれています。教会の外側を取り囲んでいるブドウの木のレリーフも見もの。
教会内部の壁にはフレスコ画も描かれていますが、劣化はかなり進んでいます。盗難も多かったようで、レリーフ彫刻と教会への扉には宝石、真珠、金の装飾が施されていたらしいのですが、これらもすでに消失しています。
ディヤルバクルでもそうでしたが、トルコではアルメニア使徒教会の保存状態が悪いことが多い印象です。オスマン帝国時代末期の「アルメニア人虐殺」をめぐり国交断絶状態にある両国。やはり政治的な影響もあるのでしょうか…
またアクダマル島からはヴァン湖の絶景パノラマが360度に広がっています。島内には軽食が食べられるカフェも営業しているので、心ゆくまま景色を楽しんでから帰路につきましょう!
アクダマル島へはフェリーが出ています。
※ 調べた限りだとフェリー乗り場は3ヵ所ありましたが、うちエドレミット(Edremit)からのフェリーはコロナによる影響で2022年5月現在、運航停止となっていました。
ここではゲヴァシュ(Gevaş)という街の近くからフェリーで行く方法を載せておきます。この方法では、ヴァンからの交通費が80リラ(往復バス+往復フェリー)+入場料45リラで計125リラ必要です。
ヴァンのオトガル(長距離バスターミナル)からゲヴァシュ(Gevaş)行きのドルムシュに乗車。途中、フェリー乗り場への案内板があるところで下車。片道15リラ。所要40分程度。
往復のチケットを50リラで購入して乗車。出発時刻は特に決まっていないようで、乗客が集まり次第の出発のようでした。所要1時間程度。
ハリメ・ハトゥン廟(Halime Hatun Kümbeti)
こちらの廟は、1335年に メリク・イゼッディン(Melik Izzeddin)が娘のハリメ・ハトゥン(Halime Hatun)のために建てたお墓。
先述のアクダマル島へのフェリー乗り場のすぐ向かい側にあるので、アクダマル島への観光の際はこちらにも足を伸ばしてみましょう。
テルス・ラーレ(Ters Lale / Fritillaria Imperialis)
花が好きな方ならテルス・ラーレという逆さに咲くチューリップを見に行くのも良いでしょう。
テルス・ラーレは学名フリチアリア・インペリアリス、日本語ではヨウラクユリ(瓔珞百合)と呼ばれるチューリップです。最大で60~80cmの高さまで成長するこのチューリップには花が逆さに咲くというユニークな特徴があり、「悲しみの花」「泣いている花嫁」とも呼ばれています。
ただしこの花が咲くのは4月下旬~5月中旬の15日間程度とごく短いのがネック。
私も見に行きたかったのですが、すでに“旬”が過ぎていたため断念しました。いつか開花時期に訪れてみてみたいものです。
シュルナクやハッカリ地方でも自生しているようですが、ヴァン周辺でこの花が見られる場所としてよく知られているのは、ヴァン湖の南側に位置するディルメタシュ(Dilmetaş)。ここにあるかつてのスルタン「ハシュ・ズベイト(Hacı Zübeyt)」の墓地周辺で見ることができるとのことです。
ホシャップ城(Hoşap kale)※閉鎖中
ヴァンの中心部から南東50キロに位置するホシャップ城。
ホシャップとはクルド語で「美しい水」を意味しますが、これは付近を流れる川を指しています。1643年、クルド人マフムディ族の酋長サリ・スレイマン・ベイ(Sarı Süleyman Bey)により建てられました。
断崖絶壁の上に突如現れる姿は圧巻のひとこと!
保存状態が良いので中も見たかったのですが、2022年5月現在は修復中で入れませんでした。完了予定日は未定とのこと。
ドルムシュのバス停④から出ている「バシュカレ(Başkale)」行きのドルムシュにて30ラリ。ホシャップ城は道路脇にそびえたっており非常に目立ちます。城が見えたら降ろしてもらいましょう。所要1時間程度。
ヴァン観光のベストシーズンは4月下旬~5月中旬!(主観)
私が滞在したのは5月の中旬~下旬でしたが、個人的には訪問するなら4月下旬~5月中旬がベストだと思いました。
先述の逆さチューリップ「テルス・ラーレ」が見られるのはもちろん、5月中旬にはインジ・ケファリの川登りの光景も目にすることができるなど見どころが増えるためです。また気候的にも一番過ごしやすいと思われます。
今回はヴァンの見どころについてまとめました。
しかしヴァンはその特徴的なローカル料理も知られています。次の記事ではヴァンのご当地料理について解説したいと思います!
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