トルコ南東部のガジアンテプ(Gaziantep)。日本ではあまり治安が良くないイメージのあるクルディスタン地域であることや、政情不安のシリアやイラクにも近いことから、あまり馴染みがない方も多いかもしれません。
ガジアンテプは何といってもトルコ随一のグルメの街。短期旅行者であればベイランやカトメルをはじめとする絶品料理に舌鼓を打つだけでも来た甲斐があるとは思います。
しかしガジアンテプの魅力はそれだけではありません。実は豊かな伝統工芸が今も息づく文化の街でもあったのです。そのどれもがオールハンドメイドで見た目的にもインパクトがあり、お土産にピッタリなものばかり!
そこでこの記事では、
- ガジアンテプのお土産に最適な伝統工芸品5選
- 2週間滞在して選りすぐったオススメのお店
についてご紹介します。中ではガジアンテプでしか手に入らないものもあるので、要チェックですよ~!
超精巧な銅細工
ガジアンテプで最も有名な伝統工芸と言えば銅細工。
銅(カッパー/copper)だけでなく、青銅(銅と錫の合金、ブロンズ/bronze)製や錫メッキ(tinned)されたタイプなどがあり、金属なので価格は比較的高いです。
まれに相場より異常に安いものが見られますが、それは真鍮(銅と亜鉛の合金、ブラス/brass)製の可能性が高いので注意しましょう。
真鍮も一応、銅の合金なので銅細工と言えなくもないですが、安価でありふれているのでガジアンテプで買う意味はあまりないかと(笑)
錫メッキされた銅の水差しもよく売っています。
上の写真はオスマン帝国時代の様式の水差し。
中央に書かれているのはオスマン語によるアブデュル・ハミト2世(Abdülhamit II)のサインです。彼は帝国末期に最も専制的な政治を行ったとされる第34代スルタン(在位1876〜1909年)なのですが、なぜ彼の名前なのかは不明でした。在りし大帝国への憧憬の念なのかもしれません。
サインが彫られているのは多いのですが、どれもアブデュル・ハミト2世でした。トルコ人には相当人気があるようです。
銅細工屋が多く軒を連ねるのは、ガジアンテプ城の南東部に位置するバクルジュラル・チャルシュ(Bakırcılar Çarşısı)というエリア。ガジアンテプ城にも旧市街にも近いので、付近に行く際にはぜひ立ち寄ってみましょう。
職人のプライドが光る「BAKIRCIZADE」
私のおすすめは、バクルジュラル・チャルシュの近くにある「BAKIRCIZADE」というお店。
1938年から三代続く老舗で、素人目にも製品のクオリティが高いのがわかりました。
特に見ていただきたいのは、カーテンで仕切られた奥の部屋。店主と少し雑談した後に「私のプライベートミュージアムへようこそ」と通されたのですが、中に入るとビックリ。そこには超絶細かい装飾と精巧なギミックが施された一級品が並んでいたからです。
例えば、
- 長さ40㎝はあろうかという重厚なカギ型のオブジェクト。端の方がキャップのようになっており、外すとトルコ伝統の刀剣が姿を現すギミック付き
- 実用性と審美性を兼ね備えた調度品。アルコールランプやジェズベ(トルココーヒーを作る容器)などいろいろな器具へと変化するギミック付き
などで、中には1000ドルを超えるものまでありました。この部屋だけは撮影不可でしたので実際の写真をご紹介できないのが悔しい限り。
しかしあえてカーテンで仕切られた部屋を設けているというのは、“見る目”がありそうな見込み客にしか公開しない、ということでしょうか?だとしたら嬉しい限りですが。
単にカモりやすそう、という理由でないことを祈ります(笑)
店主はしつこいセールスなど一切せず、その代わり安易なディスカウントにも応じそうにない堂々とした接客。 客におもねる事のない姿からは仕事に対する誇りと自信がヒシヒシと伝わってきました。
住所:Şekeroğlu, UZUN ÇARŞI (İMAM ÇAĞDAŞ YANI) No:51 D:B, 27400 ŞANİNBEY/Şahinbey/Gaziantep, トルコ
セデフ(真珠母貝 / Sedef)の工芸
ガジアンテプでは「真珠母貝(セデフ / Sedef)」の工芸も盛んです。
15世紀からの伝統芸術で、クルミの木にガジアンテプの“十八番”である銅や真鍮製のワイヤーで縁取った真珠母貝の装飾が施されています。その青白い輝きは時間を忘れて見入ってしまうほど美しさ。
トルコでセデフ手芸が多いのはガジアンテプだけとも言われているので、お土産にはうってつけですね。銅細工に比べて売っている店も少ないです。
品揃えも品質もハイレベルな「HAS SEDEFÇİLİK VE TESBİH SANATI」
セデフ工芸のオススメのお店は、ガジアンテプ城の南西部の麓にある「HAS SEDEFÇİLİK VE TESBİH SANATI」。
見て周った限りではこのお店の商品の品揃えがピカイチでした。短剣から小箱、テーブルまでとにかく種類が豊富です。
もちろんクオリティも文句なし!
このお店ではクウェート産の高級なアコヤガイ(キロ300ドル)を使用している製品があり、光沢のあるセデフがそれにあたります。対してあまり光沢のないセデフは安価なトルコ産であることが多いです。素人目にもわかるほど光沢に違いがあるので、どうせならクウェート産の方を手に入れたいもの。
その表情は千差万別なので選ぶだけでも一苦労ですが、自分の琴線に触れる一品が見つかったときの感動はひとしおです。
参考までに当店で私が親友に買ってきた選りすぐりの木箱がコチラ。この輝きはもちろん「クウェート産の方」です(笑)
住所:Karagöz, Çamurcu Sk. No:34, 27400 Şahinbey/Gaziantep, トルコ
クトゥヌ(Kutnu)
「クトゥヌ」は伝統的には経(たて)糸がシルク、緯(よこ)糸が綿で織られた光沢のある織物。
現在はシルクの代わりにレーヨンが使われることもあるようです。16世紀からの伝統織物で、歴史的にはオスマン帝国時代のスルタンの服を作る際にも使われていました。
経糸の数がより少ない「メイダニエ」や「アラカ」といった亜種も存在しています。
織手は男性のみとされ、現在はガジアンテプだけで続いている伝統手芸なのでかなり貴重なアイテム。そのガジアンテプでも今は片手で数えるほどしか残っていないといわれるほど。
こういった“ストーリー性”に加え、かさばらず軽いのでお土産にも最適です。
アンテップ・イシ(Antep İşi)【激レア】
ガジアンテプの主婦の手で作られてきた透かし細工「アンテップ・イシ」。
イシは「手芸」「工芸」のような意味で、先述の伝統織物クトゥヌやシルク100%の生地などに施されています。
オールハンドメイドで価格も高く、本記事で紹介している5つの中で最も希少性が高い印象でした。なにせ 2週間滞在して売っている店は次の一軒しか見つかりませんでしたので・・・。これもまたクトゥヌと同じく“絶滅危惧種”なのかもしれません。
買えるのはココだけ⁉「Antep Sepeti」
アンテップ・イシを売っているのは「Antep Sepeti」というお店。
バクルジュラル・チャルシュにも近いTarihi Gümrük Han (Yaşayan Müze) という建物内にあります。内部には他に銅細工などの土産物屋やカフェなども入っていますが、1階の右奥にあるのがAntep Sepetiです。
スタッフも接客が丁寧で好印象でした。
グーグルマップで「Antep Sepeti」と検索しても違う場所が出てくるので注意。下記の住所の「Tarihi Gümrük Han (Yaşayan Müze) 」内にある「Antep Septi」というお店です。
住所:Çakmak, Kadı Osman Sk. No:0, 27080 Şehitkamil/Gaziantep, トルコ(Tarihi Gümrük Han内)
イエメン靴(Yemeni)
ちょっと変わり種をご所望なら「イエメン靴」。
底が平らでかかとがない形状が特徴的な靴です。すべて自然の素材から作られており、
- 表面はヤギ革
- 裏地は羊の革(シープスキン)
- ソールは牛や水牛の革
- インナーソールは牛やヤギの革
というこだわりようで、その他にも「シリシュ」という植物由来の接着剤や、蜜蝋でコーティングされた麻紐が使われているようです。
その素材と形状から、以下のような効果があり健康にも良いとされています。
- 履くほどに自分の足の形に“最適化”されていく
- 高い通気性があるため、ムレ・臭い・たこ・発疹を防ぐ
- 体内の電気を地面に逃がせる(アーシング効果)
1足250リラ程度と手頃なのも嬉しいポイントですね。
この靴は6~700年前にイエメン人が発明しイエメンからシリアのアレッポを経由しアナトリアへ伝わったとされ、今日その職人は「キョシュゲル(Köşger)」、販売する商人のグループは「カヴァフ(Kavaf)」と呼ばれています。
そういえばトルココーヒーのルーツもイエメンにありますね。イエメンはかつてのオスマン帝国領。トルコを旅するとアラビア諸国の中でも特に存在感が際立つ国です。
以上、ガジアンテプの5つの伝統工芸をご紹介しました。
どれも魅力的なものばかりですが、冒頭に書いた通りガジアンテプの一番の魅力はやはりその食文化にあります。2週間の滞在で出会ったガジアンテプ料理についてまとめた次の記事もぜひご一読ください。
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